外傷全身CT Trauma Panscan
   
外傷全身CTとは
 全身打撲症例の初療トリアージ(初期診断)時に施行される64スライスCTプロトコール。撮影範囲は頭から骨盤まで、大腿の骨折を認めるときには膝まで。  
撮影手順
  1. 血管確保
    救急センター初療時、肘静脈に20G留置針(サーフロー針)および耐圧・ロック付延長チューブにて血管確保を行う。
  2. CT室へ移送
     頸椎カラーは外さず、ボードのまま、CTテーブルへ移す。
  3. 頭頚部トポグラム撮影(側面)
     FOVが30-50cmに規定されているためテーブルの高さをあわせる必要があるので側面で撮影する。
  4. 頭頚部スキャン:頭頂から胸郭入口部まで
  5. 頭~躯幹部トポグラム撮影(正面)
    テーブル移動が大きくなるので輸液ライン、生体モニターなどがかからないようにする。両上肢を挙上させる。できないときには片方でも挙上させ、両側挙上できないときには非対称な形にする(上肢からのアーチファクトを軽減させるため)。撮影範囲は頭~大腿中央、大腿の骨折を認めるときには膝関節まで。
  6. 頭~躯幹部スキャン:動脈相
    300mgI非イオン性造影剤100mlを3ml/秒にて注入、注入開始25秒後より頭部(Willis動脈輪が入るレベル)~大腿近位1/3までスキャン。
  7. 頭~躯幹部スキャン:平衡相
     注入開始150秒後より躯幹部をスキャン。
  8. 終了
 
検査時間
入室~頭頚部トポグラム撮影5分
頭頚部スキャン23秒
頭頚部トポグラム撮影~頭~躯幹部トポグラム撮影3分
躯幹部トポグラム撮影~動脈相撮影開始2分
動脈相撮影開始~平行相撮影終了169秒
頭頚部トポグラム~全スキャン終了までの時間7-13分
(平均10分)
 
再構成画像の作成と読影手順

再構成画像(表)と症例(clickして下さい。別窓で開きます)

 再構成画像の総スライス数は四肢の骨折がない場合、平均で1734スライスと膨大になる。そこで生命予後に関係する初期診断(下記1-5)はCT装置のモニター上で行う。
  1. 脳実質-頚部軟部組織横断像
  2. 頭蓋骨・顔面骨・頸椎横断像
  3. Willis動脈輪~大腿近位1/3:動脈相軟部組織条件横断像
  4.         同        :空気条件横断像
  5.         同        :平衡相横断像

 残る画像はワークステーションでの再構成も含まれるのでDICOM読影端末で行う。スキャン終了からこれらの画像を再構成しDICOMサーバへ転送するまでの時間は約20分を要する。全スライスを自動スクロールで観察するには約8分かかる。従ってフィルムレスシステム運用は必須。
 動脈相1mm厚/間隔の画像をワークステーションに送っておくと血管塞栓術時のナビゲーションなどに有用である。
 これらプロトコールを常に実践できるよう診療放射線技師への教育も重要となる。  
外傷全身CT加算の施設基準
  1. 救命救急入院料の施設基準を満たすこと
  2. 64列以上のマルチスライス型CT装置を有していること
  3. 画像診断管理加算2に関する施設基準を満たすこと
 
文献
  1. 坂本 力、早川克己、中島康雄、水沼仁孝 編著:マルチスライスCTによる腹部救急疾患の画像診断. 救急疾患に対する64スライスCTプロトコール:外傷パンスキャンp.38-42 秀潤社 東京 2007年
  2. Stefan Hubber-Wagner, et al: Effect of whole-body CT during trauma resuscitation on survival: a retrospective, multicentre study: www.thelancet.com Vol.373 1455-1461, April 25, 2009. 【Lancet 論文要約 (日経メディカル オンライン)